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第101期 新しい読書の形、聞く読書「オーディオブック」について

所属分類: 日常生活 更新日:2023.09.22

執筆者:利墨(上海)商务信息咨询有限公司 山田 望由

 2023年8月16日から22日まで、上海で、「SHANGHAI BOOK FAIR上海书展」という、中国の出版社が出展、販売する書籍に関するイベントが開催されました。出版社自身が展示・販売を行うイベントで、通常よりも安く書籍の購入ができます。筆者も行ってきましたが、特にオーディオブックの展示は印象的でした。出店企業は少なかったものの、本の代わりにヘッドセットを置く、QRコードをスキャンして試聴できるという展示に目新しさを感じました。

オーディオブックの展示の様子(筆者撮影)

 オーディオブックとは、朗読された本や書籍を聞く、音声コンテンツです。
 中国では約3割の成人がオーディオブックを利用しているそうです。一方日本では1割にも満たないといいます。今回は、新しい読書の形、オーディオブックについてご紹介いたします。

中国におけるオーディオブックの変遷

 中国のオーディオブックは、90年代から2000年代初期まで、テープやCDがメインでした。その後2010年代初頭に、インターネットを通じてウェブサイトから利用されるようになり、2012年以降には、蜻蜓FM、喜马拉雅といったオーディオブックのアプリケーションプラットフォームが登場しました。2013年から2014年にかけて、中国国内4Gネットワークが普及すると、さらにスマートフォンの利用が増加し、アプリケーションが急速に成長しました。現在、オーディオブックは忙しい現代人のスキマ時間の活用方法の一つとして、通勤中や家事の最中、寝る前などで利用されています。

中国のオーディオブック市場

 中国生活において、スマートフォンは不可欠であり、情報の発信授受、商品の売買はスマートフォン上で行われます。また、4Gの開始、5Gへ移行という通信技術の発展は、さらに生活の質を向上させ、決済などの生活機能のみならず、動画やゲームといった娯楽まで全てスマートフォン上で可能となりさらにオーディオブックの利用を後押ししました。

 2022年8月の発表によると、中国におけるオーディオブック市場規模は、ユーザー数に合わせて増加しており、2022年は、利用ユーザー4.2億人、市場規模93.7億元(約1,874億円)に達するのではないかと言われています。

 さらに、別の調査によると、中国の成人(18歳以上)に占めるオーディオブックの利用率は、2022年度は約35%との結果が出ています。また中国の成人に占める読書方式の統計を見ると、2020年度6.7%、2021年7.4%、2022年度は7.9%と、その割合を増やしつつあります。また、利用媒体についても、アプリの利用が2021年17.9%から、2022年21.6%と3.7ポイント増加しており特に進んだことがわかります。

参照:中国全民阅读网 (nationalreading.gov.cn)
※第18回~第20回の調査報告結果をもとに筆者作成

 上述の通り、オーディオブックの利用は進んでいるものの、未だ紙媒体やスマートフォンなどで「読む本」は根強く、業界としては成熟したとはいえません。また、オーディオブックの利用は、特に著作権の侵害などの深刻な課題を抱えています。耳で楽しむことはオーディオブックの利点ではありますが、無許可録音など、対応が難しいことが現状です。

 また、類似商品が多く出回っており、オーディオブック自体の品質の低下によって、ユーザーの定着率が下がることも課題としてあげられます。さらに、コンテンツ不足もまた課題の1つとしてあります。中国においては小説などに注力する傾向があり、教育や専門的な内容のコンテンツの不足が目立ちます。

日本のオーディオブック市場

 一方、日本でのオーディオブック市場はどうなのか。2020年1月に株式会社日本能率協会総合研究所が発表したオーディオブック市場規模・予測によると、2021年の市場規模は140億円、2024年には260億円へ伸長すると予測しました。また、インプレス総合研究所の発表によると日本でのオーディオブックの利用率は、2021年は6.9%、2022年は8.0%、2023年は8.8%と増加傾向にはありますが、1割未満に留まっています。
 日本のオーディオブックは2007年に株式会社オトバンクが始めたオンラインストアが先駆けと言われています。同社が提供する「audiobook.jp」のユーザー数は2018年以降急激に増え、2019年に100万人を突破すると、2020年10月には、160万人超となったそうです。
 サービスの開始は早かったものの、オーディオブックの浸透が遅い理由として、株式会社LANVY社のアンケート調査によると、オーディオブックを利用しない理由に「サービスそのものをよく知らない」「必要性を感じない」という理由があげられ、サービス認知度が低いことがわかります。また、普及しない理由としてコンテンツの少なさもあげられます。オーディオブックの制作においては、声優やナレーターを起用してのアナログ作成が主流です。つまり作成にかかる時間、費用が掛かるため、コンテンツの充実が進みにくいことが理由の一つにあげられます。

参照:
株式会社日本能率協会総合研究所「オーディオブック市場 2024年に260億円規模に」
インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2023」
2021年度の市場規模は5510億円、2026年には8000億円市場に 『電子書籍ビジネス調査報告書2022』8月10日発売

2022年度の市場規模は6026億円、2027年度には8000億円市場に成長 Webtoonが電子コミック市場の1割の規模に 『電子書籍ビジネス調査報告書2022』8月10日発売
株式会社LANY「なぜオーディオブックを使わない?サービスの中身が知られていないことが原因か」

今後の展望

 中国においては、スマートフォンが生活の中に深く根付いていること、また通信環境の発展に伴い、オーディオブック利用率の増加、アプリケーションの拡充で、さらなる市場拡大が見込める一方、著作権に関する問題は解決の見通しが難しく、今後の利用拡大にはボトルネックとなりそうです。
 日本においては、まだ認知度が低く利用率も増加傾向にはあるものの増加率は低いため、今後日本に浸透するかどうかがポイントとなると思われます。また、今中国で抱えている課題は、日本でも課題となると予想されます。
 オーディオブック市場は、読書の新しい形として注目されている分野です。今後、AIの進歩、自動音声の発達により、コンテンツ作成にかかる時間や量は、大きく改善していくと思われます。
 耳で楽しむ新しい文化が、今後どう浸透していくのか、注視していきたいと思います。

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