第20回 中国における与信政策プロセス①与信承認プロセス

第20回 中国における与信政策プロセス①与信承認プロセス

前回、与信管理ルールの構築と運用実務についてお話しましたが、会社として与信管理に必要なプロセスはいくつもの段階に分かれています。大きくは2つ、「取引開始前」と「取引開始後」に分かれます。今回は「取引開始前」のプロセスにおいて、各段階で何を行うのかについてご案内します。

1.与信承認プロセス

新規で取引が始まる際、または既存取引を見直す際に、取引(候補)先について情報収集を行い、定量面、定性面などの分析によって企業の信用力を判定したうえで、取引の可否を決裁することで社内の意思決定をおこない、その決裁に従って取引条件や保全策を実施していくというプロセスです。

与信承認プロセス

①情報収集
 営業部門と管理部門が、取引先について多面的に情報を収集します。営業部門は直接提出を要求したり、ヒアリング・現地確認をしたりすることを通じて取引先から入手できる情報を入手し、管理部門は信用調査会社などの第三者から入手する情報、社内の取引履歴などの内部情報など調査します。そのあと、調査結果をそれぞれ持ち寄って情報交換後、管理部門が総合分析し、見解をまとめます。

②定量分析
 定量分析とは、主に決算書の数値による分析のことです。取引先の経営状態をつかむには最も確実な手法と言えます。与信管理の分析に必要な決算書としては、財政状態が分かる貸借対照表(B/S)、営業成績が分かる損益計算書(P/L)が挙げられ、少なくともこれらは入手して分析するべきです。また直接入手できなくても、調査会社などから間接的に入手したり、外部に公開している資料から決算数値を入手し、分析を行います。特に財務比率分析は、決算書の決められた項目を抜き出して計算することで、過去からの推移をみて経営状態が良化しているか悪化しているかということや他社と比較してよい経営をしているか否かなどを容易に分析することができます。ただし、入手した決算書が必ずしも正しいとは言えませんので、粉飾も考慮し分析しましょう。

③定性分析
 企業情報の中には、単純に数値で表すことができない情報があります。例えば、経営者の資質や大株主、技術力、販売体制などが挙げられます。これらを企業の「定性情報」と言います。定量分析に加えて、定性情報を分析していくことでより詳細な分析が可能となります。数字に表れない定性分析を行うことによって、在庫が実際よりも多く計上されている、実態の分からない子会社があり貸付が不良化している可能性があるなど、決算書の数字におかしな点があることも見えてきます。定性分析を行うことによって分析の補完ができるのです。

④商流分析
 与信リスクを回避するには、取引先の分析だけでは十分とは言えません。販売する商品の仕入先や最終需要者はどこか、決済条件が業界慣行に沿っているか、納品場所・方法は適切かなど、取引自体の全体像(商流)を把握し、トラブルとなるような危険な点がないかを確認します。特に重要なのが決済条件です。決済条件は、販売先との力関係により、必ずしも思い通りにならないことも多くあります。しかし、決済条件は一度設定するとその変更は困難です。よく確認してから設定するようにしましょう。

⑤信用力評価
 ここまでの情報収集から取引先分析、取引自体の分析を経て、取引先の信用力を評価します。社内格付制度を導入し、取引先の信用力について統一的な基準で分類することで、与信リスクを算出でき、かつ取引先に対する与信方針を明確に定めることができるようになります。

⑥与信限度決裁
 与信限度とは、取引先ごとに与信の上限額を設定し、過度に与信リスクを負わないようにする制度です。営業部門から与信限度の申請を行い、社内の決裁権限規程に沿って審議者が審議意見を示し、取引における責任者となる決裁者が決裁を行うことで、取引可否の意思決定を行います。

⑦契約条件交渉
 社内の承認手続きが終われば、決裁者が設定した条件に沿った形で取引先と条件交渉を行い、契約を締結することとなります。まず基本契約を締結し、個別の取引においては注文書・注文請書といった個別契約に契約条件を記載して取引を進めるようにします。

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