第19回 中国における与信管理ルールの構築②運用実務

第19回 中国における与信管理ルールの構築②運用実務

前回のコラムでは、与信管理ルール・体制の構築に向けて、物差しとなる2つの指標『社内格付』と『与信限度額』についてお話しました。
 今回は、その2つの物差しを活用してルール・体制の構築を行い、運用していく方法・実務についてお話をしていきたいと思います。

1.与信管理ルールの構築

与信管理を行う上ではプロセスを規定した規程やマニュアルを作成し、それに従って業務を進めることが重要です。
ルールが明確になっていない中で業務を進めると社内に不安が広がり、取ることができる与信リスクも取らなくなり取引規模が縮小してしまう恐れもあります。ルールを定めてその中で活動すると決めることによって、かえって現場の自由度が増し、取るべきリスクも取れるようになります。またルールが明確になっていてこそ、会社として受容するリスクの範囲を現場に明確に伝えることができ、それによって管理部門の牽制機能も生きてきます。
 規程の柱となるのは、与信限度の設定プロセス(取引開始の申請プロセス)と債権管理のプロセスです。これらの方法、手続きを規程の中で明らかにします。
さらに、前回お話した社内格付や与信限度額に応じて申請者・審議者・決裁者などの決裁権限を定めた「決裁権限表」を別途定めることで部署や組織の変更に対して柔軟に運用を変えることができるようになります。また与信限度設定、債権管理、問題案件管理、事故対応などの個々の対応手順については「マニュアル(手順書)」に詳しく記載することで、法令や社内ルールに則った対応が現場でできるようになっていきます。

図1.<与信管理規程>

図1.<与信管理規程>

2.ルールの運用実務

与信管理というと管理部門の業務のように思われがちですが、そうではありません。もちろん管理部門は牽制機能として不可欠ですが、お客様と直接接する営業部門が意識を持って取り組まなければ、立派な規程も「絵に描いた餅」に過ぎません。
 きちんと運用していくために必要なものは運用フローと社員教育だと考えます。
 まず、どのタイミングで誰が何をするのか?その際必要な書類等は何なのか? それぞれ関係する部門がどのタイミングで何をするか、規程に沿って図解したフロー表を作成して運用することで、どこまで実施できているかが、より明確になり、抜け・漏れの防止につながります。
 この運用フローの中で、前回お話した『社内格付』と『与信限度額』といった2つの指標(物差し)による取引先の色分けを実施することで、規程と共に作成した決裁権限表に基づいて決裁ルートに沿った決裁がなされ責任の所在が明確化されます。

図2.<運用フロー表>

図2.<運用フロー表>

 会社の与信管理のレベルは、管理部門が必死にその対策を行えば向上するというものではなく、従業員一人一人の与信マインドと能力の高さによって決まるといっても過言ではありません。したがって、積極的に与信管理教育を計画し、実施していくことが重要です。
 営業部門は、常に与信管理の最前線にいるため、大変重要な責任を負っています。なぜなら、取引先自体やその周辺から情報を収集し、現場で判断し対処するなど、取引先との一次管理を担当するからです。営業部門の担当者が与信管理の要諦を理解し、現場で敏感に反応できれば、貸倒の被害を最小限にとどめることができます。
与信管理の担当者に求められる能力は、与信管理における非常に幅広い分野に関して専門的に身に付けることです。
また、管理部門の担当者は、与信管理における課題を経営に反映させる、いわゆる経営センスも求められます。
社内研修や社外セミナー参加を通じて、各担当者が営業部門、管理部門に必要な知識を身に付けられるよう、取り組んでいきましょう。

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