第8回 中国企業の与信限度額の設定方法

第8回 与信限度額の設定方法

昨年は、江守商事や昭光通商といった上場企業の中国現地法人において、与信管理体制の不備が原因で、多額の不良債権が発生したことが大きな話題となりました。その影響を受けて、今年に入り、中国現地法人における与信管理規程やルール、与信限度額の根拠などに対して、監査法人や日本本社の内部監査部門によるチェックが強化されているようです。
多くの日系大手メーカーでは、事業部ごとに中国子会社を設立していますが、子会社の管理体制が十分に整っておらず、与信管理ルールも未整備ということが散見されます。そこで今回は、与信限度額の設定方法についてご紹介します。

与信限度額とは

与信限度額とは、「取引先が倒産した場合に許容できる損失の上限額(安全な取引額)」と「営業が取引条件に基づいて算出した与信金額(必要な金額)」を考慮して定められた許容できる債権残高の最高額のことです。
与信限度額は、「絶対に超過してはならない与信の最高額」であるため、取引先ごとの与信残高が月中、月末のいかなる時点でも超えないように管理することが重要となります。

与信限度額の設定

与信限度額は、「当該取引において、必要かつ安全な金額」であるべきとの考えから、①営業が回収サイトなどから算出した必要な与信限度額を記載した与信限度額申請書を作成し申請する、②申請された金額に対して、管理部門が取引先の信用力と自社の財務体力等の安全性を鑑みて審議を行い、③決裁者が申請内容と審議内容を勘案した上で決裁する、という流れで設定されることが望ましいです。

必要な与信限度金額

売買取引の場合は、月間取引金額×回収サイト(期間)で算出されます。季節変動等を考慮し、1ヵ月分の取引金額を上乗せするなど柔軟性を持った設定をすると運用がしやすくなります。ただし、需要と乖離した多額の与信限度額を設定してしまうと、債権額が急増した場合に検知できなくなるおそれがあるため、必要最低限の金額を設定することが重要になります。

安全な与信限度額

与信限度額の設定方法には、販売先の月間売上高の10%を与信限度額とする「月商1割法」、初めは低く設定し、段階的に増枠する「段階的増枠法」など複数の方法がありますが、いずれの場合においても信用調査会社からの情報入手等によって、取引先の信用力も鑑みる必要があります。

決裁者

与信金額や取引先の信用力に応じて、取引リスクが変わるため、リスクに応じた決裁ルートを定める必要があります。大手企業であっても、与信限度額が数千万円を超えた場合には、日本本社での決裁にしている会社が多いようです。

与信限度申請のタイミング

新規取引を開始する時だけでなく、与信限度額を増額する時、信用力に変化が生じた時などに申請する必要があります。特に、取引増加によって与信限度額を増額する必要が有る場合には、必ず事前に限度額増額の決裁を得ることを徹底する必要があります。事故発生後に、初めて債権額の大きさに気付くことが無いように注意しましょう。

優良企業に対する与信限度額

与信限度額の上限は、取引先の信用力に大きく左右されます。しかし、資本背景などが優良な取引先であれば、制限なく取引しても良いというものではありません。中国国有企業や中国上場企業の倒産は、今年に入り既に数件発生しています。上述の通り、必要な金額と乖離が生じない範囲で、かつ取引先の信用力のみでなく、自社の財務体力や取引先における自社の取引シェアなども考慮して、与信限度額を設定すべきです。

この観点から、リスクモンスターでは安全な与信限度額として、①自社財務体力、②取引先の売り込みシェア、③決裁権限金額という3つの金額の最小値を適切な金額とする方法を推奨しています。

中国企業信用調査サービス お問い合わせ 利墨メルマガ